精霊の守り人

知的な大人が納得する本物のファンタジー

アニメ『精霊の守り人』ファンタジー
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おすすめ度5

大人満足度5

★はあくまで筆者の主観。大人満足度は大人向けの内容という意味ではなく大人が楽しめるかどうか。

制作年:2007年

このアニメを見る前に、実は先にテレビドラマを見ていた。テレビドラマが好きじゃなく、日頃ほとんど見ないというのに、番組宣伝にまんまと乗せられてしまったのだ。なんと養老孟司氏を引っ張り出してきて、ファンタジーは素晴らしいのだと語らしめ、多言語に翻訳されている原作小説を絶賛した。加えて、主演の綾瀬はるかが殺陣の練習に真剣に取り組んでいる様子や、美術スタッフの仕事ぶりなどを紹介し、国営放送がこんなにも注力したんぜアピールがすごかったのだ。

しかし、期待に胸膨らませて視聴した率直な感想は、「ふーん」だった。よって続編は見ていない。

アニメの存在を知り、視聴したのは、ドラマを見てから数年も経ってからだ。アニメの方が9年も前に制作されていたとは全然知らんかった。

アニメの方が恐らく原作に近いのだろう。はっきり言って、ドラマより断然面白い。 ま、ドラマの方は4Kテレビの普及が目的だったようなので、面白いかどうかなんてどーでもよかったのかもしれないけど。

好みの問題だけどね。

見どころ:架空の世界の冒険活劇だが、と同時に、人々の暮らしぶりや経済活動といった社会を構成する要素の細部まで生き生きと描かれていて、そのリアルさに大人も納得の出来栄え。

有名な経済学者にして、我々一般人には“超整理法”シリーズでよく知られている、野口悠紀雄氏が週刊ダイヤモンドに連載していたエッセイ『超整理法日誌』に、“『風の谷のナウシカ』に関する主観的一考察”と題する原作漫画の論評がある。(ナウシカのアニメではなく漫画を読んだことのある人は、是非この論評を読んでみて欲しい。ナウシカ原作への理解が深まること請け合いである。著者はクシャナのファンらしい。)

そのエッセイの中に“優れたファンタジーの条件”と題した文章がある。その内容を私流にかいつまんで解説すると、まず、何でもアリはダメだってこと。例えばドラえもん。ポケットから出すアイテムでご都合主義的に何だって解決する。これでは大人も魅了するほどのファンタジーにはなり得ない。

次に社会科学的リアリティ。ファンタジー世界全体を、経済や統治機構や民の暮らしに至るまで、緻密に設定してこそ大人も満足する作品たり得る。これはファンタジーに限らない。物語の背景にある情報量が多いほど、当ブログの大人満足度の評価は高くなる(★が多くなる)。特にシリアス作品の場合に重要なファクターである。

本作『精霊の守り人』は、この社会科学的リアリティの点で図抜けている。当然、何でもアリにもなり得ない。リアリティがあるからこそ、その対比としてファンタジーとしての不可思議な面にも真実味が増すし、不自然に大げさな表現などなくとも充分に興奮させられる。本作は制作年こそ古いが、とても丁寧に作られているアニメなので、このリアリティの部分をうまく表現できているので、安心して視聴開始して欲しい。

裏を返すと、少年ジャンプの人気漫画を原作とするアニメは、エキサイティングではあるけども、決して大人満足度が高くなることはない。社会科学的リアリティがほとんど考慮されていないからだ。

設定:用心棒稼業の主人公は、恐ろしく肝の据わった壮年の女性。

文明レベルは日本の江戸時代くらいだろうか。鉄砲はない。よって、女用心棒の主人公はその腕っ節でのみ男の武人らと伍する、、、どころか返り討ちにしたりする。それくらい強い。だいたいアニメっちゅーもんは、若い娘の可愛さと神通力に頼りすぎである。本作『精霊の守り人』はカワイイ女の子は出てこない。主人公のバルサの、戦い続けてきた気骨と生き抜いてきた知恵でもって道を切り開く。だが、強いだけでなく生活感も持ち合わせている。とにかく頼れる姉御なのだ。

主人公バルサが痛快。敵対関係にある反社の無頼漢たちとも奇妙な信頼関係を持ってたり、清濁併せ呑むタイプの女傑。

アニメ『精霊の守り人』主人公バルサ
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日本の原風景のような美しい映像

田園、水車小屋、庶民の暮らし、四季、食膳。恵み豊かなアジアの風景がベースとなっている。それでいて宮殿の造りや王族の衣装などにファンタジーぽさが漂う。細かいところまで丁寧に作り込まれた映像に好感が持てる。少し前に作られたアニメだが、安っぽさは微塵もない。時代劇にちょっとエキゾチック風味を加えた世界観と言えばいいだろうか。

台詞も時代がかっている。「呪術師よ、王子は息災であらせられるか?」王族に対してのみ用いられる二重敬語をさらりと言わせたりする。

子供が見ても面白いアニメだとは思うが、我々大人こその気づきが多々あって興味深いよ。

謎へのアプローチ方法の違いにファンタジーぽさを垣間見た

先住民の呪術師だけが、魔物の住む別世界を、その呪術でもって僅かに垣間見ることができる。そして彼らには古からの口伝がある。それらを拾い集めて真相に迫る。それに対して支配者層の科学者は、王宮の地下深くに秘匿された石版の碑文の古語を読み解くことで真相に迫る。石版の数は目眩がするほど膨大だ。こういったお話しの進め方、ファンタジー的で楽しい。

ストーリー:大悪党を退治する話ではなく、少年を守り抜く物語。

このアニメの登場人物たちの属性は多様だ。現実味のあるダイバーシティと言っていい。まず主人公バルサは外国人だ。護衛対象は王位継承権第2位の王子で、バルサが頼りにしている呪術師とその弟子は先住民だし、旅支度の手配を頼む少年少女は橋の下に住む貧民だ。そして敵対勢力は官僚を兼務する科学者と、王様の私兵で精鋭の武人たちだ。

そんな彼らが、それぞれの立場で懸命に役目を果たそうとする。そこに悪意はない。ただ少年を守るため。そこにもって魔物の存在が絡んでくるのだが、それすらも自然の摂理の一部なだけであり、特段人類を敵視しているわけではない。

それゆえ、見ている者としては、敵味方どちらにも肩入れすることもでき、一種のジレンマを抱える。シンプルな勧善懲悪ではないところが、このアニメの魅力であり、大人向けと言い切れる所以だ。

とここまで聞くと、何ともスッキリしない展開になりそうに思えるかもしれないが、保証する。本作『精霊の守り人』は胸のすく爽快な物語である。

また、本作は少年の成長物語でもある。王宮の中しか知らなかった王子が、街の人々と交流し、初めて友達を作り、市井の経済を理解し、生きるために獣を獲って解体することまで学ぶ。どんどん頼もしくなってゆく。

王子の行く末が楽しみでしょうがない。続編を作ってくれたら是非見てみたいものだ。

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